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生命誌

生命誌

「生命誌」は中村桂子さんのキー概念です。

中村桂子さんは、日本の「生命科学」の創出に関わってきたのですが、そのなかでゲノムを基本に生きものの歴史と関係を読み解く新しい「知」として「生命誌」という概念を創りあげてきたとされています。著書は多数ありますが、その集大成として、現在、藤原書店から「中村桂子コレクション いのち愛づる生命誌」(全8巻)が出版されています。

このなかで「生命誌」の考え方が繰り返し、切り口を変えながら説明されています。

その一例として第6巻の第2章の「はじめに」から少し長くなりますが、そのまま引用します。

 

「二〇世紀後半、DNAを基礎として生きものを研究する生命科学が急速に進展しました。多くの知識を蓄積し、それに基づく技術は医療や農林水産業などの産業を進歩させました。ところでその結果、社会は「生きること」を大切にする方向に向かったでしょうか。実は生命科学は生き物を機械ととらえ、その構造と機能を理解し、そこから技術を生みだしていきます。そこでは産業を活性化し、経済を成長させることが目的になっています。しかもその底には「機械論的世界観」があります。ですから、研究が進んでも、そこからはあまり「生きること」の意味や大切さは浮びあがってこないのです。

ここに疑問を抱き、DNAを基盤にする科学を「生きものを生きものとしてみる」という新しい(実は古くからあり、しかもあたりまえの)見方につなげたいと考えて「生命誌」という新しい知を創りました。もちろん「人間も生きもの」です。地球上の多様な生きものは、どれも細胞から成り、そこにはDNA(その総体をゲノムとよぶ)が入っています。そこには三八億年前の生命誕生の時からこれまでの生命の歴史が描きこまれています。そこでDNA解析をもとに生きものの歴史物語を読みとるのが生命誌です。そこからは、多様な生きものの歴史と関係がわかってきます。」

 

このような考え方を一枚の絵にあらわしたのが「生命誌絵巻」なのです。この絵は「生命誌研究館」(高槻市)のシンボルとして入り口に掲げられています。

中村桂子さんは、「中村桂子コレクション」にまとめられているように、「生命誌」の研究のなかで、まど・みちおや宮沢賢治などの世界を紹介するなかで、「人間は自然の一部である」という世界観をもつことが重要だとしています。そして、その世界観を支える言葉として「愛づる」という言葉に注目しています。この「愛づる」という言葉は平安時代後期の短編物語集『堤中納言物語』に収められた「虫愛づる姫君」に依ったものと説明しています。

「中村桂子コレクション」のタイトルはつぎのようなものです。

1 ひらく 生命科学から生命誌へ

2 つながる 生命誌の世界

3 かわる 生命誌からみた人間社会

4 はぐくむ 生命誌と子どもたち

5 あそぶ 12歳の生命誌

6 生きる 17歳の生命誌

7 生る(なる) 宮沢賢治で生命誌を読む

8 かなでる 生命誌研究館とは

これらの著作から「生命誌」の考え方があらたな広がりをもって伝わってくるようです。

 

(原  強)

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