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ブックガイド ジョン・ミッチェル著『追跡・沖縄の枯れ葉剤』

ブックガイド ジョン・ミッチェル著『追跡・沖縄の枯れ葉剤』

 

ベトナム戦争で米軍が2.4.5-Tなど枯れ葉剤を使用したことにより、環境破壊、さらにベトナムの人々だけでなく米軍兵、さらに韓国兵の健康に影響を及ぼしたことは中村梧郎の著作『母は枯葉剤を浴びた』『戦場の枯葉剤』や坂田雅子監督の映画『花はどこへ行った』『沈黙の春を生きて』などで伝えられてきた。

しかし、沖縄がベトナムへの出撃基地であれば、沖縄に枯れ葉剤が持ち込まれ、備蓄・保管され、目的地に向けて積替えられたりしていたことは、その気になれば簡単に想像できることなのだが、本書が明らかにするような沖縄の枯れ葉剤の実態についてはあまりにも知らされずにきたようである。

本書について訳者・阿部小涼は「訳者あとがき」で次のようにのべる。

「本書は、ヴェトナム戦争時に用いられた軍用除草剤が、沖縄で備蓄、使用、廃棄されたという事実について、病害を被った退役米兵たちの証言を手がかりとして明らかにするものだ。数々の証言を前に、いまだにこれを認定しない米国と追従する日本に向け発せられた警告の書である。」

著者ジョン・ミッチェルは大学時代に「アメリカン・スタディーズ」という学際的な探求の学問を学び、米国の公民権運動や人種マイノリティ集団の歴史や現状をとりあげてきたのだが、ジャーナリストとして沖縄の米兵という「取材対象」に出会ったことから、2011年4月12日、『ジャパン・タイムズ』紙に最初の記事「沖縄におけるエージェント・オレンジの証拠」を皮切りに、沖縄における枯れ葉剤の調査報道を開始したのである。

米軍当局からは「沖縄にエージェント・オレンジないし同種の除草剤について使用、貯蔵、輸送したことを示す」いかなる記録もないと否定されるが、著者は、事実を証明するために、被害を受けた人々からの聞き取り、被害を証明するための根拠文書の探索をもとに報道を継続し、さらに多くの被害者からの勇気ある証言を引き出し、問題の全体像を描き出していったのである。

2013年6月、かつて嘉手納空軍基地の一角だったサッカー場の改修工事に際し、ドラム缶が掘り出される。そのなかの数本の側面に「ダウ・ケミカル」という社名と、ドラム缶の出所と思われる同社の向上「ミシガン、ミッドランド」の文字が白いペンキで書かれていた。ただちにドラム缶周辺の土壌と水質のサンプルがとられ、ダイオキシン研究の実績を持つ愛媛大学に送られた。愛媛大学の分析結果は、発見されたドラム缶のすべてから2.4.5-Tとともにダイオキシンが検出されたというのである。沖縄に枯れ葉剤が持ち込まれ、備蓄、使用され、廃棄されていたことを証明するに足る「動かぬ証拠」が見つかったのである。

しかし、これによって、沖縄に枯れ葉剤が持ち込まれ、備蓄・使用され、廃棄されていたという事実が証明されたとしても、それを公式には認めない、さらにそのような情報は隠し、何もなかったかのように扱う米国政府とそれに追従する日本政府の姿勢は変わらないままでいるのも現実なのである。

本書が出版されてからすでに7年が経過しているが、問題の解決のためにはまだまだ時間がかかるかもしれない。しかし、事実を伝える、事実を知らせる努力の積み重ねのなかで、歴史が動いていくということを信じたい。

そのためにも、本書が広く読まれるのとともに、本書のもとになった著者の調査内容が大手メディアでもあらためて正確に報じられることを期待したい。

 

(高文研 2014年11月刊)

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