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ブックガイド 福岡伸一著『生命海流』

ブックガイド 福岡伸一著『生命海流』

 

福岡伸一のガラパゴス航海記である。

ガラパゴス諸島。かつてダーウインも訪れ、のちに『種の起源』をまとめるときの一つの基盤になったとされる。このこともふくめ、生物学を志すものであれば、一度は訪れたいと思う場所である。

最近では観光ツアーも組織されるとのことだが、著者が考えてきた「夢」は、ダーウインが『ピーグル号航海記』で書き記したものを再現したい、ということであった。ダーウインが見たものを、ダーウインが見た順番に追体験することを通して、ガラパゴスをめぐる謎を追ってみたい、というのが私の果たせぬ夢なのだった、という。

「ガラパゴスに行きたい。これはナチュラリストとしての長年の夢だった。・・生涯、一度でいいから、絶海の果てに位置するガラパゴス諸島に行って、溶岩と巨石に覆われ、絶えず波に現れる岸壁に生息する、独自の進化を遂げた、奇跡的な生物を実際にこの目で見てみたい」と願ってきたのだという。

その夢が実現することになったのである。出版社からの提案で、ガラパゴスへの旅が実現したのである。それは、著者にとって、自分の「原点」にもどることだった。

著者にとっての「原点」は、「顕微鏡のレンズを覗いたとき、その奥に見えた生命の小宇宙に鳥肌が立った」感覚であり、「生命の本来の姿、ピュシスに触れたときの驚き」だという。

ガラパゴスへの旅は、まさにその「原点」に立ち返ることだったというのである。

旅は始まった。2020年3月。空路、ガラパゴス諸島の拠点であるサンタ・クルス島に入り、そこからマーベル号に乗り、ダーウインと同じ航路、すなわち、フロレアナ島、イサベラ島、ボリバル海峡を抜けて赤道を越え、サンティアゴ島をめぐり、そのあと、ダーウインの最初の寄港地、サン・クリストバル島を訪問するというものであった。ダーウインが1ケ月あまりをかけて調査・測量をしたというのを、1週間ほどで追体験する行程であった。

マーベル号には、ヴィコ船長、グアーポ副船長、船員フリオ、料理人ジョージ、通訳兼旅行の下準備をしてもらったエクアドル在住日本人のミッチさん、それに日本からの著者と、フォトグラファーの阿部さんの一行が乗り組んだ。

訪問した島々で出会った生き物の写真が巻末にまとめられているが、巨大なゾウガメやイグアナなどとの出会いは感動の連続だったことだろう。

「ガラパゴスの生物たちは人間を恐れないだけではない。人間に興味をもっているのだ。好奇心さえ持っているといってもよい。それはたまたまだからではない。ガラパゴスという環境が、ガラパゴスの生物をして、そうさせているのではないか。」

「ガラパゴスは旧世界とは全く違った環境を生物に提示した。そして、新世界たるガラパゴスに出現したがら空きのニッチでは、生物が本来的にもっている別の側面がのびのびと姿を表すことができた。それがガラパゴスの生物たちが示す、ある種の余裕、遊びの源泉なのではないか。」

著者の「生き物」のとらえ方がリフレッシュされていく有様が伝わってくるようだ。

マーベル号の船上での食事やトイレ事情など、生活の記録も興味深い。

読者は、この本を読むことで、ガラパゴスへの旅を著者とともに楽しむことが出来るだろう。

 

(朝日出版社 2021年6月)

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