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映画『MINAMATA』

映画『MINAMATA』

「日本の公害の原点」といわれる水俣病。その真実を伝えることはとても困難なことであり、勇気のいることであるが、いろいろな人が、いろいろな方法でチャレンジしてきた。原田正純は研究者として『水俣病』(岩波新書)をはじめとした数多くの著書を遺した。石牟礼道子は『苦海浄土』を遺した。そしてユージン・スミスは写真集『MINAMATA』を遺した。

 

水俣病公式確認から65年、映画『MINAMATA』が公開された。この映画は、ユージン・スミスの写真集がどのように作られ、どのようなメセージ伝えようとしたのかを、映画という手法で表現しようとしたものである。

 

映画では、ユージンが、仕事も金もなく、酒に溺れるなか、アイリーンから「水俣」の取材を依頼され、事の重大さに気づき、水俣を訪れることになる。そこで、胎児性水俣病の子どもと生きる松村夫妻をはじめとした水俣の人々とふれあい、その日々の暮らし、その苦しみを写真にしていくのである。

ユージンの取材を快く思わないチッソ側の妨害を受けながらも、撮り続けた作品に手ごたえを感じ始めたところ、作業場(暗室)が放火されてしまう。

一度は絶望したユージンだが、あらためて水俣病の真実を伝えることの使命を思い起こし、患者に寄り添い、シャッターを切り続ける。このなかで撮られた一枚の写真が、写真集を代表する作品「入浴する智子と母」なのである。映画としてもこの撮影のシーンがクライマックスだといえる。ユージンの作品は「ライフ」に掲載され、衝撃を与えることになる。

 

今回の映画『MINAMATA』は、土本典昭の映画『水俣――患者さんとその世界』のような完全ドキュメンタリーではなく、「事実をもとにしたフィクション」であり、焦点はジョニー・デップが演じるユージンにあてられている。すなわち、「ユージン・スミスが撮った水俣」というより、「水俣を撮ろうとしたユージン」を描いた「ドラマ」になっている。「水俣」を伝える場合、フィクションが許されるのか、という問題もあるように思われる。撮影も、一部を除き、水俣現地ではなく、セルビアとモンテネグロで行われたという。

このあたりが水俣の真実を伝えるということとの関係で気になることであり、今回の映画そのものの評価につながるようだ。

 

 

「入浴する智子と母」は水俣病を伝える写真として広く使用されてきたが、家族の意向もふまえ、1998年、「封印」されたものだが、今回、特別に「封印」が解かれたという(朝日新聞2021年10月16日)。

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