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コロナ時代とその後、私たちの生き方

<レイチェル・カーソン日本協会関東フォーラムからのメッセージを紹介します>

 

コロナ時代とその後、私たちの生き方

レイチェル・カーソン日本協会関東フォーラムからのメッセージ

自然を語る会(2020.718

 

自然は、沈黙した。うす気味悪い。

鳥たちはどこへ行ってしまったのか。

春が来たが、沈黙の春だった。

 

これはレイチェル・カーソンの『沈黙の春』の有名な一節ですが、今年の春はそれに加えて人間も社会も、すべてが沈黙した春でした。

新型コロナウイルスが201912月末に中国で発生して以来、7月半ば現在世界中で感染者1300万人以上、死者57万人以上という惨事になっており、ますます拡大の傾向を見せています。日本においてはそれに加え豪雨災害なども増え、多くの人が被害に苦しんでいます。コロナと豪雨災害、偶然に重なったものでしょうか。もちろん細かい日時の重なりは偶然によるものでしょうが、両者ともこの時代に起こりうる災厄であったといえます。それは、我々人間による自然の破壊が引き起こしたものだからなのです。自然の沈黙も、人間社会の沈黙も、原因は人間にあるのです。

コロナ禍にかんして、霊長類学者のジェーン・クドールさんは次のように語っておられます。

 

われわれが森を破壊すると、森にいるさまざまな種の動物が近接して生きていかざるを得なくなり、その結果、病気が動物から動物へと感染する。そして、病気をうつされた動物が人間と密接に接触するようになり、人間に伝染する可能性が高まる。

動物たちは、食用として狩られ、アフリカの市場やアジア地域、とくに中国にある野生動物の食肉市場で売られる。また、世界中にある集約農場には数十億匹の動物たちが容赦なく詰め込まれている。こうした環境で、ウイルスが種の壁を越えて動物から人間に伝染する機会が生まれるのだ。

 

新型コロナウイルスだけでなく、多くの感染症が、野生動物に由来することが知られています。本来はそれぞれすみ分けていて接することのなかった動物と人間、しかし人間のあくなき開発によって住処を奪われた動物たちが人間社会の近くに出没するようになり接触の機会が増え、それらの感染症が人間にも伝播するチャンスが増えたというのです。

豪雨被害にしても、やはり自然破壊に由来することは多くの科学者によって述べられています。人間の社会活動の行き過ぎによる地球の温暖化、海水温の上昇が豪雨を引き起こしているのです。開発による森林の減少も温暖化ガスの増加、地盤の脆弱化などに大きな影響を与えています。

わたしたちは、自分が感染しないように、また周りの人を感染させないよう注視して生活してきました。そのおかげでかなり感染者が少なくなったのですが、緊急事態宣言解除の後は、以前の日常がもどってくるにつれて再び感染爆発が起きそうな気配です。コロナ禍の状況下では、マスクの着用、手洗い消毒、ソーシャルディスタンスをとるなどはもちろん必要なことです。でもこのような行動規制は私たちが望む本来のライフスタイルではないはずです。私たちは誰もが互いに寄り添い、助け合って生きていくことを望んでいます。どんなときも誰かの笑顔に励まされ、肩を抱いて喜びを分かち合って生きてきました。人間の行動や感情の自由は決して奪われてはいけないものだと思います。では私達はこれからどのような生き方をしていったらよいのでしょう。

それは、今までの人間中心の考え方を見直すことだと思います。

 

私たちのすんでいる地球は自分たち人間だけのものではない(『沈黙の春』より)

 

この地球上に住んでいるのは、我々人間だけではありません。数えきれないほど多くの生き物がいてそれらが密接に絡み合いながら生きています。地球のあらゆる生きものは、地球上に生命が誕生した38億年前から今日に至るまで、気の遠くなるような長い年月をかけて、進化と絶滅、食物連鎖を繰り返しながらやっと今日の多様性に富んだ絶妙な平衡状態を作り上げてきたのです。そしてこの生命の歴史を根底で支えているものは地球上の豊かな自然に他なりません。それゆえに人間は生き物の一員であり自然の一部なのです。その生命の網を断ち切るような今の人間社会のありようが、ほかの生き物を苦しめるだけでなく今回の災厄をもたらしているのです。人間同士(国同士も)が良い関係で生きていくことは大切なことですが、ほかの生き物ともよい関係で生きていく、そのことをしっかり念頭に置く必要があるのではないでしょうか。

もちろん、今の文明生活をすべて捨てろ、ということではありません。しかしやみくもに経済重視で突き進むのではなく、この行動はほかの生き物にとってどうなのか、また、同じ人間の中でも、国内ばかりではなく、遠くの国の人たちを苦しめる格差などを生み出すものではないだろうかとか、もっと良いやり方があるのではないかなど、考えながら行動するだけでも大きな違いがでてくるでしょう。私たち一人ひとりが自分の生き方について考え、行動していく必要があると思います。現に、今回のパンデミックの影響で世界の多くの都市がロックダウンしたことで、一日のCO2排出量が最大17%も減ったという報告もあります。スモッグでおおわれていた町に青空が戻ったという話も聞きます。やってできないことではないのだということがわかってきました。これを機会に、“もっと上へ”“もっと成長へ”という元の競争社会に戻すのではなく、“もっと広く”“もっとやさしい”まなざしを持つ協調社会を目指して「別の道」を歩んでいきましょう。

 

経済に軸足を置くのではなく、生命に軸足を置く、その道を進んでいかない限り地球の未来、そして私たちの未来はありません。

レイチェル・カーソン日本協会

関西フォーラム

 

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