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書評:リンダ・リア編、古草秀子訳『失われた森』

書評:リンダ・リア編、古草秀子訳『失われた森』

 

 レイチェル・カーソンは『沈黙の春』などごく限られた著書しか残しておらず、その生涯や人となりを知るための手紙や講演記録などはあったとしてもあまり見ることができないものとされていた。それだけに、これまでは、ポール・ブルックスの『生命の棲家』(現在は『レイチェル・カーソン』という表題で出ている)に収録された小品、レポートなどがレイチェル・カーソンを知るための大事な手がかりであった。

 最近になってドロシー・フリーマンとの往復書簡集『Always,Rachel』が出版され、レイチェル・カーソンの多数の手紙が紹介され、さまざまな事実を知ることが可能になったのだが、今回、リンダ・リア編による『失われた森』  (原題『Lost Woods』)が出版され、しかも、日本語訳で簡単に手にすることができるようになったことにより、レイチェル・カーソン像にあらたな広がりをもたせることができるようになったといってよい。

 編者のリンダ・リアはジョージ・ワシントン大学で環境史を担当しているが、1997年にレイチェル・カーソンの伝記『Rachel 

Carson-Witness for Nature』を出版している。この伝記は、彼女が10年余りかけて調査を重ねたというもので、実に多くの注記にあるように、膨大な資料をもとにまとめられたものである。

 今回の『失われた森』も、そのための調査のなかで発掘された遺稿の数々であり、少女時代の投稿作品、魚類・野生生物局時代の広報記事、各種の随筆や講演記録、手紙などをほぼ年代順にまとめている。読者としては、どこからでもよい、4部に分けられた31の遺稿について、ていねいな解説になっている「序」、「訳者あとがき」を指針として、興味がもてそうなものから順番にひとつひとつ味わっていくならば、科学者としての目と、文学者としての感性をあわせもったレイチェル・カーソンが、徐々に見えてくるのではないだろうか。

 レイチェル・カーソンは「海の伝記作家」だといわれ、海にまつわる三部作を残しているが、これらの作品にいたるまでのデッサンともいうべき小品からも、彼女の自然を愛する心と、自然と自然のなかに生きる生きものたちを的確に描写する力を窺い知ることができる。これも、いわれれば驚くほどのこともないのだが、ドビュッシーの管弦楽曲『海』のアルバム解説を書いており、ナショナル交響楽団のための慈善昼食会で講演をしているということなど、実に興味深いものがある。また、『沈黙の春』執筆後、彼女が何に関心をもっていたかということも、この遺稿集から知ることができるのではないか。

 いずれにせよ、本書は、レイチェル・カーソンを愛する人にとって座右におくべき一冊であろう。

  なお、題名となったLost Woodsは、レイチェル・カーソンがこよなく愛したメイン州の海岸沿いの森につけた名前で、彼女は私財を投じてここに自然保護区を設立したいと願っていた。現在、この森は彼女の遺志を継いだ環境保護組織によって守られているということである。  (集英社、定価2205円) (原  強)

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