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書評:リンダ・リア著、上遠恵子訳『レイチェル』

『沈黙の春』は二十世紀を代表する本である。DDTが「奇跡の化学物質」といわれた時代に、残留性の高い危険な農薬・殺虫剤を際限なく使用したとき自然はどうなるのか、人間の健康への影響はないのかと鋭く問いかけた。その先駆性は高く評価されている。「人間だけの世界ではない、動物も植物もいっしょにすんでいるのだ」というメッセージは、二十一世紀をむかえたいまもみずみずしい。

本書は、『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンの生涯をこれまでの空白部分を埋め、数多くのエピソードとともに豊かに浮かび上がらせた。読者は本書を通じて、彼女の生涯を追体験し、彼女の自然とそこに生きる無数の生命への熱い思いがいかに育まれていったのか、それがいかにして『沈黙の春』に結実していったのかを知ることができる。

著者のリンダ・リアはジョージワシントン大学研究教授。大学で環境史の講義をするなかで、レイチェル・カーソンに関する文献が少ないことに気づき、10年あまりの歳月をかけて取材を続け、この本を書き上げたという。巻末にリストが掲げられているが、彼女のことを知る多くの人に徹底したインタビューを続け、エール大学バイネキ稀覯書文書図書館に寄託された彼女の原稿やメモをはじめ、書簡、関連資料を丹念に調べ上げる作業を経て、本書は編み上げられるようにして形作られていったのである。その作業の一部は、リンダ・リア編、レイチェル・カーソン遺稿集『失われた森』(古草秀子訳、集英社刊)として発表され、それ自体が注目された。

本書は、プロローグと19章からなる本文に、膨大な「注」「参考文献」「索引」がつけられている。また、「謝辞」「後記」に加え、翻訳出版にあたり「日本語版への序文」がつけられた。800ページにも及ぶ本書は、実に「レイチェル・カーソン百科事典」ともいうべきものであり、もはやこれを上回る伝記が書かれることはあるまい。

翻訳にあたった上遠恵子はレイチェル・カーソン日本協会会長。長年にわたりレイチェル・カーソンの生涯や業績を紹介しつづけてきた。映画『センス・オブ・ワンダー』には朗読者として出演している。

Witness for Natureと題する原著が出版されたのが1997年9月。それから5年近い歳月を要したが、本書は2002年、『沈黙の春』出版40年の年に、最良の翻訳者の手により翻訳出版された。<東京書籍刊、5000円>                          (原  強)

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